食彩 Speciality Foods

〈食彩 2008.12.1 update〉

interview

190万政令都市農業の生き方

――地域ブランド「さっぽろとれたてっこ」の普及と地産地消に全力

札幌市経済局農政部長 山崎 正滋氏
(札幌市農業委員会事務局長)

山崎 正滋 やまざき・まさしげ>
昭和27年7月 芦別市生まれ
平成13年4月 白石区菊の里連絡所長 就任
平成15年4月 環境局環境計画部総務課長 就任
平成19年4月 経済局農務部農業委員会担当部長 就任
平成20年4月 札幌市経済局農政部長 就任
                        現在に至る

 190万政令都市の札幌は、北海道の大消費地となっており、道内での地産地消の旗振り役として大きな役割を担っている。一方、市内でもタマネギを中心とする野菜や花卉類などの農業生産は行われており、独自の品質認証制度として「さっぽろとれたてっこ」というブランドの普及にも取り組んでいる

――札幌市の農政の概要からお聞きします
山崎 札幌市の農業は昭和35年がピークといわれています。農家戸数も面積も減少の一途で、現在の農家戸数は1,123戸、耕作面積も約2,300haですが、昭和35年当時は農家戸数が5,156で耕作面積も14,500haですから、五分の一位です。  札幌市が政令指定都市になったのは昭和47年ですが、それ以前から急速な都市化が進んでおり、農地が住宅、公共施設用地などに転用されて減少しました。道内の市町村とは少し違う理由で、急速に戸数と面積が減少したわけです。  今後の札幌の農業はどうあるべきかということで10年後を見据えた都市農業ビジョンを18年3月に策定しました。担い手を確保し、まとまりある集団的な農地として価値のあるところは残していくことを基本方針としています。  また、顔の見える農業として「さっぽろとれたてっこ」事業を展開しています。これは減化学肥料、減農薬の基準を満たした農産物への認証制度で、認定される農家戸数と農産物を増やすべく19年4月から始めています。  北見や帯広では一戸当たりの農地面積が何十haもありますが、札幌では2、3hほどで、都市型農業の生きる道として市民との接点を増やしていくことも重要です。市民にも農業を理解してもらいながら、安全・安心な農産物を作ってもらい、食育や食農教育を通じて接点を増やしていく方針です。  そして地産地消を推進し、189万市民を札幌の農家の消費者、受入側とし、ニーズを高めることを、都市型農業として目指すべきだと考えています。  東区にある、さとらんどの中には札幌市農業支援センターがあり、そこで平成13年から担い手育成のために「札幌農学校」を開校しています。農家になるにも、まず技術を身につけなければなりません。  ただ、札幌で農業を始めるにも、農地を売って頂ける農家があるかどうか。仮にあっても、周辺の市町村より非常に高いと思われます。そうした問題もあり、札幌農学校の卒業生は、去年までに230人いましたが、最新のアンケートで、農業に従事している人は、14人でした。  多くは公務員や民間会社に勤めたものの、土と関わりを持ちたくなったり、野菜を作って、自分でも食べたいという考えで、農家を継がなかったけれども、定年してからやってみようと始めた人々です。
――本格的な営農は困難ですね
山崎 このため「さっぽろとれたてっこ」も、なかなか認証農家戸数や農産物の品目が増えない問題点があり、どう普及していこうか悩んでいるところです。現在、認証を取得している農家は19年度で130戸ですが、全体としては年間に50万円以上の売上がある農家数は785戸ですから、高い割合ではないですね。そのうち専業農家は三百数十戸で、それ以外は兼業です。そこで今年の目標は140戸に増やすことですから、何とかクリアできそうな見通しです。  このほか、流通の問題もあり、例えばスーパーで「さっぽろとれたてっこ」の認証商品は、あまりご覧になったことがないと思いますが、クリアしなければならない課題が多くあります。
――物量が少ないのでしょうか
山崎 それもありますが、スーパーでは独自のプライベートブランドを別ルートで仕入れているので、そこに「さっぽろとれたてっこ」の幟を立てて、コーナーを作ってもらうように依頼しても、スーパーごとの営業方針があって割り込めない状況もあります。  そのため「とれたてっこ」をどう拡大していくかが今後の課題です。タマネギは札幌が発祥の地なので、「札幌黄」や、「サツオウ」という品種を拡大していきたいと考えています。市役所地下食堂には特製ラーメンのメニューがあり、ペーストにしたタマネギを小麦粉に練り込んだ麺を使っていますが、そうした加工品も普及するよう努力しています。
▲さとらんど交流館 「さっぽろ圏大地の恵みフェア」 ▲さとらんどセンター
――園芸的な趣味農業が都市型の特徴かもしれませんね
山崎 市民にニーズがある市民農園などは、数が増えています。高齢で自分で畑を起こし収穫するのが困難な農家が、市民農園として農地を貸し出す事例が増えると、農地の荒廃を避けることにもつながる、市としても推奨しています。  規模はおおむね50uくらいですから、自宅の庭で足りなかったり、マンション住まいの人々には人気があるようです。これについては、市民農園整備促進法という国の法律もあり、それに基づく市民農園は現在で18ヶ所です。単に農地を勝手に使って下さいと区画割りしただけではなく、休憩施設や給水施設、物置、トイレなどの施設も整備し、農家への補助制度もあるので、年間に1〜2ヶ所ずつ所増えています。  一方、さとらんどにも、市が独自の条例で設置した市民農園があります。
――農地の有効利用としては適切ですね
山崎 農地は農家でなければ所有できませんが、NPOや企業など農業に無関係の法人でも参入できる特定法人貸し付け制度があります。農家の農地を札幌市が借りて、それをNPOや株式会社に貸す仲介者となるもので、19年度から始まった制度ですが、他市町村ではあまり見られません。札幌はすでに9法人が参入していますが、本州の農家は先祖代々から受け継いだ財産という認識なので、未知の人には貸したくないという抵抗感があるようです。したがって、札幌は全国の中でも進んでいる方だと思います。  去年はそば屋さんが、そば畑として3ha借りましたが、さらに拡大したいとの希望もあるようです。また、新聞で報道されていますが、中沼でブルーベリーの栽培をし、菓子メーカーなどに供給している方もいらっしゃいます。
――都市型農業には独自の可能性もあるのでは
山崎 日持ちのしない葉物を生産し、時間をかけずに出荷するというまさに都市近郊農業として理想的な営農をしている農家の方もいらっしゃいます。  また、さとらんどは、札幌の農業をPRしていく施設ですから、是非これからも有効活用していきたいと思っています。体験農園もありますから、子どもに限らず親御さんも含めて気軽に来て頂きたいと思います。
――地産地消に向けての取り組みは
山崎 流通については関係者の様々な意向もあり、地産地消を進めるためには、やはりフードマイレージの考え方が浸透する必要があるでしょう。北海道のものが本州に供給される一方で、本州の農産物を我々が消費している実態もあります。  したがって、流通業界の協力も得ながら、地産地消を実現したいと思っています。
――札幌市のリーダーシップが重要ですね
山崎 石狩管内でも農産物の生産高では下位の方ですが、多くの消費者を抱えている札幌市としては、市民のニーズとして地産地消を先導していくことは可能だと思います。  そして、私たちは札幌市の農家はもちろんのこと、189万市民のことも考え、札幌広域圏の農業を地産地消に結びつけていく取り組みが必要だと思います。最近行われた収穫祭を契機として他市町村、JA、ホクレンと連携を取りながら進めていくことが、今後の市の農政としての大きなテーマです。  それによって札幌市、石狩管内の農業が元気になっていけば、「とれたてっこ」事業の拡大や担い手、耕作放棄地などの問題についても改善に繋がるものと期待しています。

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