建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年4月号〉

interview

札幌駅南口開発ビル設計者に聞く

株式会社日本設計札幌支社長 平館 孝雄 氏

昭和15年5月2日生 神奈川県出身
昭和 39年 3月 31日 東京大学建築学科 卒業
41年 3月 31日 東京大学大学院修士課程 修了
41年 4月 (財)建設工学研究会
42年 4月  且R下寿郎設計事務所
42年 9月  鞄本設計事務所(現:鞄本設計)
58年 12月  鞄本設計 取締役海外業務室部長
59年 4月  鞄本設計 取締役建築設計部長
平成 元年 12月  鞄本設計 常務取締役建築設計本部長
5年 4月  鞄本設計 常務取締役技術センター長
9年 4月  鞄本設計 常務取締役札幌駐在
9年 7月  鞄本設計札幌支社 常務取締役支社長
一昨年“設立30周年”を迎えた鞄本設計は、いま新たな一歩を21世紀に踏み出そうとしている。
日本で最初の超高層ビルといわれる「霞ヶ関ビル」をはじめ、当時としては日本で最初の超高層ホテルである「京王プラザホテル」(新宿)などを手掛けてきたことから、業界内では“超高層の日本設計”として名高い。
また、設立当初から、「札幌」「名古屋」、その後「大阪」「福岡」と地方にも拠点を置き、あらゆる角度から“日本のあるべき将来像”として、会社名同様、“日本設計”を模索し続けている。
「札幌駅南口開発ビル」でも、その設計力が遺憾なく発揮されている。
平館孝雄札幌支社長は、設計理念について、「施設とは、デザイン上のアイデンティティーを持ちつつも、周辺環境と調和するものでなくてはならない」と提言する。今回の札幌駅南口開発駅ビルほか、これまで歩んできた設計に込める思いと、これからの時代に設計が求められるものとは何であるのか、インタビューした。
――鞄本設計のこれまでの歩みをお聞きかせください
平館
当社は、昭和42年に設立され、平成9年をもって「設立30周年」を無事に迎えることができました。
設立当初、100名余りのスタッフでスタートしましたが、当時の日本は、まさに高度経済成長期の真っ直中であり、また、多くの建築主の支援もあり、このように大所帯の新参グループが生き残って行くには、大変ラッキーな社会状況にあったと思います。
私達が手掛けた「霞ヶ関ビル」や「京王プラザホテル」は、設計当初から“超高層”として大変に注目を浴びましたが、例えば、京王プラザホテルなどは、「超高層ホテルは事業として成り立たない」という当時のホテル業界の批判もあり、建築主としては相当な決断をしたと思います。しかし、現在では、新宿にそびえ立つ高級感漂うホテルとして愛されており、その後続出した超高層ホテルの原点になっています。
――札幌市内で、手掛けられたものはありますか
平館
ホテルとして代表的なものは、「札幌全日空ホテル」と「ホテルアーサー札幌」です。
――どちらも、周辺の景観の特性を非常によく捉えており、圧迫感のないスマートな高層ホテルという感じですね
平館
そうです。いずれの施設も、設計する際には関係者の方々と、綿密な話し合いを重ねて、皆さんに永く親しまれるホテルを目指した結果なのです。
――今回の「札幌駅南口開発ビル」の設計上、気を配った点は
平館
建築主の事業が成り立つような設計内容にして行くことは、設計者として当然のことですが、“設計”という観点からは大きく2つの項目に配慮しています。
一つは、北海道の玄関口であり、かつ中心ともいうべき札幌駅のプロジェクトとしていかにふさわしいデザインとするかということ。もう一つは、周辺環境との調和ということです。
私達は、当ビルに隣接する予定の「大丸」百貨店の設計も担当させて頂いていますが、“南口広場”は札幌市が、“南口地下街”は札幌駅地下街開発(株)がそれぞれに計画、建設しています。
このように、駅再開発事業の一環として、多方面から様々な計画が練られるわけで、私達はこれら多面的な建築主や設計者との協議を通して、総合的に見て調和のとれた駅前空間をつくってゆくことが大切だと考えています。この札幌駅のアイデンティティーの確保と周辺環境との調和という一見相矛盾する事柄を一つのコンセプトにまとめることが設計者としての重要な役割のひとつと考えています。
――支社長が歩まれてきた“高度経済成長期の日本”と、現在の“窮地に立たされている日本”の激しい変遷のなかで、設計に対する『大切なもの』も何らかの変化があるのでしょうか
平館
まずは、既存の制度疲労から来ている現在の混乱が収束したとき(恐らく21世紀に)、どのような社会が出現するかを予測する能力と、設計者としてそれを提案できる能力が要求されています。
さらに具体的に設計上の変化をいえば、ビッグプロジェクトに携わることが多い私達にとって、“環境”を考えずには設計ができなくなっているという現実です。 
環境問題は設計者だけでなく社会の人達がそれぞれの立場で考えてゆかなければならない複雑な大問題ですが、建築界で私達は最も初期にこの問題意識を持ち、例えば“ハウステンボス”のようなプロジェクトを通して、実践もしてまいりました。
この点では、設計の早い段階に、建築主との相互理解を図っていくこともとても大切なことです。
――最近は「ダイオキシン問題」を筆頭として、環境問題への関心が日に日に高まっています。しかし、その“環境”という言葉のなかには、大変に膨大な課題が山積みしており、また見方や考え方によって方向性が変わってしまいます。環境問題の解決について、支社長ご自身の見解をお聞かせください
平館
難しい質問ですが、設計の立場から言わせて頂くならば、『長期的な観点で施設づくりを見つめていくこと』ではないかと思います。
建物は、有限な時間を過ごす人間とは違い、時間とともに半永久的に生き続けていくものです。それとともに、当然、周辺環境も姿を変えますが、そこにある建物も移りゆく「人々」と「環境」を反映しながら、自然と共存できるものでなくてはならないと思うのです。
いまは人間が、「他の生き物と共存できる」環境づくりが早急に求められています。建物の設計だけではなく、これからは、人間の心そのものも設計していきたいものです。
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