札幌駅前大規模再開発となるJRタワーの建設工事は、総事業費約750億円、敷地面積65,500平方メートル、地上38階地下4階、工期は3年にわたり、3工区に分かれて行われる一大プロジェクトだ。平時は1,000人の作業員が現場で汗を流す。これほど大規模な作業現場では、そうした労務管理、工務管理、工程管理は容易ではない。それを支えたのは、IT技術とネットワークを駆使した先進的な情報システムだ。JRタワー全体総括事務所は、このITの構築管理、さらには広報業務などを専管する各JVの横断的なセクションとして、渉外部を設置し、これを中心に管理業務のIT化を推進している。
◆システムの概要
システムの概要(別図)は、各JVの現場事務所と発注者・設計者を100MbpsのLAN回線でつなぎ、ウェブグループウェアシステムによる情報の共有を容易にするシステムを構築。
仮設計画、労務・安全環境、工程計画、品質、共有管理など多岐にわたる管理業務を大手ゼネコンが独自に開発した工程管理システム、労務管理システムなどを持ち寄り、その中から使いやすいシステムを選択し組み合わせた。この結果、多くの管理業務のIT化が実現している。これを使用するための端末は、各JV事務所ごとに設置するほか、Iモードによって携帯電話からアクセスすることもできるようになっている。
◆IT化された管理業務
労務・安全環境の管理において、作業員の現場への出退管理は、当初は各作業員ごとに割り当てられた暗証番号を数字パネルに入力していたが、入力の煩雑さから混雑や混乱が起きることから、バーコードを記録したシールを作成。安全ヘルメットに貼付し、バーコードで読み込むシステムとすることで、解決した。全作業員の資格、年齢、連絡先、所属会社といった個人データが集約されている。個人データの入力は、共通のフォーマットに基づき、各工区作業所ごとに入力する仕組みになっている。これにより、システム管理者が膨大なデータ入力の手間を省くことができる。もちろん、部外者のアクセスはできないよう、厳重なセキュリティは施されている。
また、工事作業による周辺への影響を監視するため、山留・水位・騒音・振動などの計測器を要所に設置。そのデーターをサーバーで一元管理している。このデータは、許容値をオーバーすると担当者の携帯電話へEメール(警報)が送られるシステムになっている。
こうした大規模な工事現場では、外部からの連絡や、作業者同士の連絡において、携帯電話の機能は重要だ。だが、高所や地下など電波が届きにくく、受信できないようでは、機能を果たせない。そのため、作業所内に独自に電波の中継設備を導入した。
工事現場には、監視カメラが設置され、鮮明なカラー動画が常時モニターされている。このカメラは、数十メートル離れた地点にいる人々の表情までが判別できる高性能カメラだ。
安全管理のミーティングでは、現場作業者が現場見取り図に、日々の作業に伴う危険個所と安全箇所を色分けして入力しておき、ミーティングの際にこれをスクリーンに映し出して説明する。これは毎朝行われる朝礼にも100インチを超えるスクリーンを設置し映し出し、当日の現場の状況を作業員へ周知している。
また、各工区作業所長はじめ作業員は、個々にデジタルカメラを所持し、現場内で気になる箇所を撮影。その映像も映しながら、注意事項を伝達するという使われ方もしている。
この他、工程計画管理では、マスターネットワーク、月間工程情報の共有管理、工事進捗状況の確認・報告を取りまとめ、品質管理では、設計図履歴管理仮設図・施工図・竣工図などの共有管理などを行っている。
これによって、日々の作業の進行状況、作業員の動向、施工上の問題点と解決にいたる行程などが、逐一デジタル化された情報として共有化されるとともに、記録としても保存される。これによって、トラブル発生の原因を正確に究明できるとともに、着工から施工に至るまでの貴重な工事記録が、画像も含めて残されることになる。
◆IT化による情報の共有
また、このネットワークを活用して、総括事務所では独自のホームページも開設し、会議の議事録管理、事務連絡、動画カメラ、定点写真など、様々な情報提供が行われている。
現場で、特に好評なのが掲示板やEメールで、緊急を要さない連絡事項や、作業や技術に関する情報交換を任意に行うことができる。そのため、これを利用するために得意先、設計事務所、各企業体全員にメールアドレスが与えられている。
全体総括事務所の沢田幹夫渉外部長は「IT化によって、ただちにコスト削減の成果を数値で示すことは容易ではないが、既存の道具も、単体ではなく組み合わせることによって、新たな機能を発揮します。業務に用いる道具が変われば、それによって人の考え方も変わります。IT革命とはそういうものだと考えています」と語る。
同事務所では、今後も業務分野のIT化を進めるべく模索する方針で、共用設備等の管理事務をIT化し、安全で効率的な環境を構築していく予定だ。