北朝鮮に対して強固姿勢で臨む日本とは一線を画してきた中露二カ国が、国連安保理決議に続いて、G8及び拡大会議を通じて協調路線を取ったのは、孤立化の可能性が懸念された日本にとっては大いなる前進と言える。サミット馴れしたお陰とは言われながらも、中東情勢に目を奪われている欧州や、自らが北朝鮮と同じくミサイル発射の前科を持つ中露の重い腰を上げさせ、日本の思惑に乗せていった小泉首相の、在任最後の踏ん張りは素直に評価したい。また9.11テロ以降、決裂が常習化して機能が疑問視されてきた国連の、別の一面を示した意義も大きい。
問題は、世界の不良政体たる金正日軍事独裁政権を、どう更生させるかであろう。単に六者協議に応じさせれば、それで良いのだろうか。協議によってミサイルと核開発の放棄を宣言させ、拉致問題を謝罪させて横田めぐみさんらを解放・帰国させれば、それで良いのだろうか。北朝鮮が国際社会の一員として、当たり前の役割と機能を健全に担ってきていたなら、本来、これらは論議する必要のなかった問題である。
そもそも、その存続基盤となる財源が、正規の産業・経済活動、貿易収入や納税に基づく歳入ではなく、偽札、麻薬、武器輸出、テロリスト養成、拉致工作などの犯罪収入に基づくとなると、それは国家ではなくマフィアである。そして、国民に対しては厳格な情報統制と恐怖政治による思想管理で、いわば人質同然の処遇であり、公共投資は軍備優先で経済開発が後れているために、国民生活は一部の官僚を除いて困窮を極めている。北朝鮮は、つまり軍備を持った犯罪組織が、領民と領土を独裁支配する治外法権の無法地帯であって、国家と呼び得る体制を成しているとはいえない。ブッシュ大統領をして、悪の枢軸と言わしめた所以である。
今回のミサイル連発事件も、その真意は様々に分析されるが、最も核心を突いているのは米政府による金政権の存続保証と、金融制裁解除のための米朝二国間協議にあるという見解に尽きるだろう。米政府は東アジア圏域での主導権を、中国に一任する構図を構想していることから、金政権を直接攻撃する考えがないことを表明してきた。しかし、マカオ中央銀の口座凍結は、その金政権の存亡を揺るがす措置であったため、イラクのような直接攻撃ではなくても、それに等しい間接攻撃となって打撃を与えているのは、確かである。
その二国間協議に固執する姿勢に見られるのは、一独裁者の自己保身の思惑だけであって、そこには国民の福祉を顧慮する視点はない。おそらく、金総書記の脳裏には、米政府の軍事介入で解体されたアフガンのタリバン政権や、国際司法の場に引きずり出されたイラク・フセイン大統領、米軍の爆撃におののき慌てて武装解除を宣言したリビア・カダフィ大統領、さらに遡れば、国内クーデターで公開処刑されたルーマニア・チャウシェスク大統領など、様々に失脚した独裁者達の姿が、常に悪夢として離れずにいるのであろう。その恐怖から逃れることだけが、金総書記の直面している至上命題である。
そうした暗愚の独裁者が君臨する閉鎖的暗黒地帯を、国家として認定すべきなのかどうか、論議はそこまで掘り下げられるべきであり、真の国家運営とはどうあるべきか、それを自ら再検討し、自己総括させる方向付けが、最も重要な課題だろう。悪の実をもぎ取るのではなく、悪の芽を摘むことが大切である。
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