寄稿/関東地方整備局 鬼怒川ダム統合管理事務所

寄稿/関東地方整備局 鬼怒川ダム統合管理事務所

地域観光資源であるダムの「魅せる」長寿命化対策

―― 川俣ダム周辺部補強工事

 

国土交通省 関東地方整備局
鬼怒川ダム統合管理事務所長

丸山 日登志

 

川俣ダム(平成 30 年 4 月点検放流時)

 

1.ダム群統合管理における川俣ダム

利根川水系鬼怒川の上流部には、鬼怒川沿川及び利根川下流沿川における治水、利水、河川環境の保全のための4ダム、1連携施設(ダム間を結ぶ水路トンネル)が完成しており、当事務所では、これら複数の施設を一体として運用し、最大限の効果を発揮させる統合管理を行っている。

施設の所在地は、全て栃木県日光市内であり、世界遺産である日光の社寺を抱える同市においては、ダム等施設の観光資源としての活用に期待するところも大きい。

昭和41年に完成した川俣ダムは、有効貯水容量が7,310万m3で4ダム合計の27%を占め、4ダム中で最も大きい集水面積と、山岳域への豊富な降雪を背景に、統合管理に当たっての主力と位置付けた運用を行っている。

2.工事着手に当たっての懸念

川俣ダムでは、ダム堤体を支える左右岸の岩盤補強対策として建設時に施工された岩盤PS工について、老朽化による破損、劣化が進行していることからダム長寿命化対策として、完成後48年目を迎えた平成26年度より、岩盤PS工の更新工事に着手している。

川俣ダムの下流には、「瀬戸合峡」と呼ばれる峡谷が形成され、垂直に切り立った岩壁に原生林をまとう独特の自然と、巨大構造物のダムがマッチした景観に魅せられた根強いファンが多く、特に新緑と紅葉の季節には周辺の県道に渋滞が発生するほど多くの人々が訪れ、奥鬼怒の観光スポットとしての地位が確立している。

そのような中、岩盤PS工の更新工事の計画段階では、工事に当たり大型クレーンや、大規模な仮設足場を設置する以外に方法を見出せず、工事に着手した後には、大自然を求めて来訪した人々に失望感を与え、しばらくの間は観光客が大幅に減少するのではないかと懸念された。

3.インフラツーリズムとの連動

折しも国の成長戦略の中で立ち上がった観光立国推進閣僚会議において平成25年6月に「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」が策定され、その中で「インフラツーリズムの推進」が示された。

川俣ダムにおける岩盤PS工の更新工事においても、インフラツーリズムの概念に沿って工事現場のPRに取り組むこととして、平成29年度からの工事の本格化に合わせて見学者の積極的な受け入れや、施工会社との協力の下、散策で訪れた観光客への工事現場見学スペースの確保、分かりやすい工事説明看板の設置等を行った。すると、訪れた方々のSNSによる情報発信で瞬く間に工事現場の様子が拡散し、壮観な仮設足場の見学を目的として多くの人々が訪れることとなった。

話題が拡がるにつれ、新聞及びテレビによる取材も数多く訪れるようになり、特にテレビでは、情報、バラエティー、天気予報など、幅広い分野で取り上げて頂いた。

結果として、工事着手前の観光客減少の心配をよそに来訪者は、工事着手前の約1.6万人から約2.3万人に増加した。工事現場を積極的に公開し、情報発信に務めたことがインフラツーリズムの成功へとつながったものと考えられる。

瀬戸合峡 渡らっしゃい吊橋

ダムライトアップ(管理用照明の点灯)

4.おわりに

川俣ダムは、建設時において地域の皆様の深いご理解とご協力により、工事事務所設置から約8年間という短期間で完成した。ダム建設に伴い移転が必要な方々は、全戸が一括してダム湖に隣接した土地に移転され今日に至っている。ダムは、地域の皆様の生活基盤であるとともに、下流域の多くの人々が訪れることにより地域の振興と活性化が図られる拠点としての役割を合わせ持っている。

現在、川俣ダムでは、当該工事により賑わいが生まれているものの、工事はやがて完成を迎え、峡谷に再び大自然とダムの静寂が戻ることとなる。せっかく増えた瀬戸合峡ファンの心をつなぎ止め、再訪問を促すために、現在、地元日光市、川俣地域住民及び関係機関と協働により進めている水源地域ビジョンの取り組みとして、ダムライトアップ、星空観察会、ダム湖利用の促進などを切れ目無く進め、地域観光資源としてのダムの存在価値を高めていくこととしたい。

川俣ダム星空見学会

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