寄稿/近畿地方整備局 紀伊山系砂防事務所

寄稿/近畿地方整備局  紀伊山系砂防事務所

平成29年度より新体制の
「紀伊山系砂防事務所」でフル稼働

国土交通省 近畿地方整備局 紀伊山系砂防事務所

 平成23年9月の台風第12号(紀伊半島大水害)により、紀伊半島(奈良県・和歌山県・三重県)では 3,000 箇所を越える斜面崩壊が発生し、その土砂量は約1億m3にもおよびました。

奈良県、和歌山県では大規模斜面崩壊により河道閉塞が発生、二級水系那智川では同時多発的な土石流により、甚大な被害が発生しました。

これらの災害を受け、国土交通省近畿地方整備局は、大規模斜面崩壊や河道閉塞箇所の決壊による二次災害のおそれのある箇所に対し、緊急的に砂防事業を実施し、安全を確保することを目的として平成24年4月に、紀伊山地砂防事務所を設置しました。

一方、熊野川等の各流域では、崩壊斜面等からの土砂流出や下流河川での土砂堆積による地域の安全度の低下が懸念されたことから、国土交通省は平成29年度より「紀伊山系直轄砂防事業」に新規着手しています。

これに伴い、平成28年度末をもって旧来の「紀伊山地砂防事務所」を廃止、平成29年度より今日の「紀伊山系砂防事務所」を設置し、紀伊山系および木津川水系における直轄砂防事業に取り組んでいます。

紀伊山系直轄砂防事業

紀伊山系における崩壊地の拡大や不安定土砂の流出等に起因する土砂災害から国民の生命・財産および重要交通網等の社会基盤を保全するため、砂防堰堤を中心とした施設の整備を推進し、土砂災害に対する安全度の向上を図るため砂防事業を実施しています。

令和4年度は、奈良県内と和歌山県内の8箇所において砂防施設の整備を進めていきました。

熊野川流域赤谷地区では、発災当時、幅460m、高さ600m、長さ850mの崩壊が発生しました。約1,138万m3にのぼる崩壊土砂で河道が閉塞し、湛水池が形成されましたが、現在は埋立てが完了しています。

湛水池の埋立てにより越流・決壊等のおそれは低下しましたが、河道閉塞部の堆積土や崩壊地内の不安定土砂の二次移動により、下流の清水、長殿、宇宮原、上野地地区で、甚大な被害が生じるおそれがあります。

このため、河道閉塞部の堆積土や崩壊地内の不安定土砂の下流への流出を防止するための工事を実施しています。令和4年度に、3号砂防堰堤は完成し、また、渓流保全工(上流)を令和5年度も引き続き、施工しています。

熊野川流域の長殿地区では、発災当時、幅 340m、高さ 400m、長さ 650m の崩壊が発生しました。約595万m3にのぼる崩壊土砂で河道が閉塞し、現在も湛水池を形成しています。大雨が降ると湛水池からの越流により、河道閉塞土砂の急激な侵食にともなって土石流が発生し、下流の長殿、宇宮原、上野地地区で、甚大な被害が生じるおそれがあります。

このため、河道閉塞土砂の急激な侵食を防止し、また河道閉塞箇所の下流に堆積した土砂の流出を防止するための工事を実施しています。令和5年度は引き続き、排水トンネル工(推進工)および減勢工を施工しています。

熊野川流域の栗平地区では、発災当時、幅600m、高さ450m、長さ650mの崩壊が発生しました。約2,385万m3にのぼる崩壊土砂で河道が閉塞し、湛水池が形成されましたが、現在は埋立てが完了しています。

湛水池の埋立てにより越流・決壊等のおそれは低下しましたが、河道閉塞部の堆積土や崩壊地内の不安定土砂の二次移動により、下流の滝川地区で甚大な被害が生じるおそれがあります。

このため、河道閉塞部の堆積土や崩壊地内の不安定土砂の下流への流出を防止するための工事を実施しています。令和5年度は引き続き、2号砂防堰堤、および管理用道路を施工しています。

熊野川流域の北股地区では、発災当時、幅200m、高さ190m、長さ350mの崩壊が発生しました。約117万m3にのぼる崩壊土砂で河道が閉塞し、湛水池が形成されましたが、現在は埋立てが完了しています。

湛水池の埋立てにより越流・決壊等のおそれは低下しましたが、河道閉塞部の堆積土や崩壊地内の不安定土砂の二次移動により、下流の北股地区で甚大な被害が生じるおそれがあります。

このため、河道閉塞部の堆積土や崩壊地内の不安定土砂の下流への流出を防止するための工事を実施しています。令和5年度は引き続き、排土工(斜面対策工)を施工しています。

熊野川流域の冷水地区では、発災当時、幅230m、高さ180m、長さ290mの崩壊が発生し、約140万m3にのぼる崩壊土砂が発生しました。

斜面再崩壊による崩壊土砂や、熊野川河道部における顕著な河床上昇等により、上流の坪内地区、下流の九尾地区で甚大な被害が生じるおそれがあります。

このため、崩壊斜面の安定化や、洪水流の安全な流下のための護岸整備を実施しています。令和5年度は引き続き、崩壊斜面の押え盛土工、法枠・鉄筋挿入工および集水井を施工しています。

熊野川流域の神納川流域では、紀伊半島大水害以降、流域全体で山腹等の荒廃が進み、崩壊斜面等から大量の土砂が流出、河川に流入した土砂により、河床が上昇することで洪水氾濫のおそれが高まるなど、未だに危険な状態が続いています。

このため、継続的な土砂流出や顕著な河床上昇を防止するための、恒久的な対策を行っています。令和4年度は、小井谷2号砂防堰堤を施工し、新たな砂防堰堤整備に向けた調査設計、測量を実施しています。

日置川流域の熊野地区では、発災当時、幅440m、高さ250m、長さ480mの崩壊が発生しました。約526万m3にのぼる崩壊土砂で河道が閉塞し、湛水池が形成されましたが、現在は埋立てが完了しています。

湛水池の埋立てにより越流・決壊等のおそれは低下しましたが、河道閉塞部の堆積土や崩壊地内の不安定土砂の二次移動により、下流の熊野地区で甚大な被害が生じるおそれがあります。

このため、河道閉塞部の堆積土や崩壊地内の不安定土砂の下流への流出を防止するための工事を実施しています。令和5年度は引き続き、床固工群および流路護岸工を施工しています。

那智川流域では、発災当時、那智川に流れ込む各支川で多くの斜面崩壊が発生し、流れ出た土石流により、多くの人的被害、物的被害が発生しました。

現在、緊急対策工事により8つある支川において計15基の砂防堰堤が完成しています。令和5年度は引き続き、那智川本川上下流、金山谷川の遊砂地を施工しています。

木津川水系直轄砂防事業

木津川水系における土砂流出に起因する土砂・洪水氾濫被害、および土石流被害から国民の生命・財産および重要交通網等の社会基盤を保全するため砂防事業を実施しています。

木津川水系における砂防事業は、明治11年に着手して以来、荒廃した山地を緑化するための山腹工や砂防堰堤を主体とした工事を実施してきました。

その一方で、昭和に入ってからも昭和34年9月の伊勢湾台風をはじめ、台風や集中豪雨等により山腹崩壊や土石流災害が発生しており、継続して砂防施設を整備しています。

また管内の砂防施設の状況を適切に把握し、計画的な補修も進めて行きます。令和4年度は、三重県内と奈良県内の3箇所において砂防施設の整備を進めていきます。

名張川流域の谷出地区は、土砂災害警戒区域に指定されており、保全対象区域内には人家や要配慮者利用施設があります。また区域内には国道165号(第1次緊急輸送道路)も存在することから、甚大な被害を未然に防ぐための砂防堰堤整備など恒久的な対策を行っています。

令和4年度は引き続き、谷出第6砂防堰堤を施工しています。

名張川流域の三本松地区は、土砂災害警戒区域に指定されており、保全対象区域内には人家や要配慮者施設があります。また区域内には国道165号(第1次緊急輸送道路)および近畿日本鉄道も存在することから、甚大な被害を未然に防ぐための砂防堰堤整備など恒久的な対策を行っています。

令和5年度は引き続き、三本松砂防堰堤を施工しています。

名張川流域の大野地区は土砂災害警戒区域に指定されており、保全対象区域内には人家や要配慮者施設があります。また区域内には室生口大野停車場線(第2次緊急輸送道路)も存在することから、甚大な被害を未然に防ぐための砂防堰堤整備など恒久的な対策を行っています。

令和4年度から引き続き、工事用道路の施工に向けた調査設計、測量を実施しています。

様々な技術の活用

国土交通省では、施工に現場での人員不足解消その他の省力化に向けて、ICT技術による無人化施工の技術開発と導入を進めています。
UAVの自律飛行による自動点検

台風などの風水害による出水後の巡視・点検などを行う際、危険で人が立ち入れない場合や悪天候によりヘリコプターでの調査飛行ができない場合が多くあります。

そのような時はUAVを使用して点検を行っていましたが、操縦者が目視で確認できる範囲しか対応できませんでした。技術的・法令的な問題が解決し、プログラムしたルートを自動で飛行する「自律飛行」が可能となったことから、引き続きUAVによる点検・監視の完全自動化を目指して実証実験を行っていきます。

自動化施工

赤谷地区の3号砂防堰堤工事においては「自動化施工」を実施しました。自動化施工は、プログラムに従って無人の建設機械が自律的に工事を進める最新技術で、人が遠隔操作する必要がなく施工効率が向上します。

災害復旧現場における「自動化施工」の採用は全国初の取り組みです。

近畿地方整備局カテゴリの最新記事