寄稿/中部地方整備局 静岡国道事務所

寄稿/中部地方整備局  静岡国道事務所

静清バイパス清水立体事業におけるECI方式の活用について

―― 1号清水立体八坂高架橋

 

国土交通省 中部地方整備局 静岡国道事務所


私たちが進めている国道1号静清バイパス清水立体は、静岡市清水区横砂東町~八坂西町を結ぶ延長2.4kmを高架構造にする事業で、交通渋滞および交通安全、環境保全を目的とした事業です。

本稿では、清水IC西交差点を跨ぐ八坂高架橋の施工にあたり、試行的に導入しているECI方式の可能性と課題についてご紹介します。

1. 技術提案の審査及び価格等の交渉による方式(技術提案・交渉方式)

現在、発注される土木工事は、そのほとんどが総合評価落札方式・価格競争方式を採用しており、その中でも設計後に工事積算と予定価格を作成、工事発注する設計・施工分離発注方式が採用されています。

しかしながら近年、重要幹線道路で通行止めが許されない場合や施工ヤードが著しく狭隘である場合など、これまでの知見では仕様の確定が困難であり、従来の工事発注方式のみでは効率的で効果的な施工が困難なケースが見受けられました。

このため、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が改正され、第18条に「技術提案の審査及び価格等の交渉による方式(技術提案・交渉方式)」が新たに規定されました。(図-1)

 

図-1  総合評価落札方式と技術提案・交渉方式の適用工事の考え方

 

2.設計段階から施工者が関与するECI方式

技術提案・交渉方式においては、契約タイプとして設計と施工を一括で発注する方式と設計段階から施工者が関与する方式(ECI 方式)があり、後者については選定した施工者との間で、設計と施工を一括で契約するタイプと個別に契約するタイプとに分類されます。(図-2)

 

図-2  技術提案・交渉方式の契約タイプ別の選定フロー

この設計と施工を一括で契約するECI方式(技術協力・施工タイプ)は、発注者が最適な仕様を設定できない工事、または仕様の前提となる条件の確定が困難な工事に適用されるもので、技術提案に基づき選定された優先交渉権者と技術協力業務の契約を締結し、別の契約に基づき実施している設計に技術提案内容を反映させながら価格等の交渉を行い、交渉が成立した場合に施工の契約を締結するものです。(図-3)

図-3  技術協力・施工タイプにおける契約手続きの流れ
国道1号静清バイパス清水立体事業は、静岡市清水区横砂東~八坂西町を結ぶ延長2.4kmの区間を交通渋滞の緩和および交通安全、環境保全を目的に高架構造とする事業です。

当該区間は国道1号静清バイパス唯一の平面区間であり、激しい交差点渋滞により、旅行速度の著しい低下が発生し、交通事故件数も立体化区間に対し非常に多い状況です。

このため、実際の施工にあたっては、工事中の事故及び渋滞、沿線の家屋や商業施設の出入り、国道1号の上空での作業等の観点から、工事時間や工期そのものの短縮、安全確保が求められるものと想定されました。

中でも、八坂高架橋(延長L=約184m)は、交通量が多い清水IC西交差点を跨ぐ橋梁で、施工時の交通規制による一般交通に与える影響が懸念され、設計者だけではなく施工会社が有する高度で専門的な知識等を活用し、通常工法を越えるアイディアが求められたため、ECI方式の活用に踏み切ることとなりました。(図-4)

 

図-4 八坂高架橋の事業箇所

 

3.清水立体事業におけるECI方式の活用

(1)ECI方式での契約手続きのプロセス

ECI方式での契約手続きのプロセスとして、まずは施工者候補である優先交渉権者候補の企業及び技術者の能力等を評価しました。次に上位10者の優先交渉権者候補の技術提案内容を評価し、技術評価点の高い者から順位付けし、第1位の者を優先交渉権者と選定しました。

その上で発注者が、設計者と設計業務の契約を締結するとともに、優先交渉権者と技術協力業務の契約を締結しました。

優先交渉権者とは技術協力業務の契約と同時に、工事の契約に至るまでの手続に関する協定(以下「基本協定」という)を締結し、円滑に価格等の交渉を行いました。また、優先交渉権者の技術提案を踏まえた設計を円滑に実施するため、技術協力業務及び設計業務の仕様書に発注者、設計者及び優先交渉権者の三者間の協力に関する取り決めを記載するか、三者間で設計協力協定を締結することとされています。

今回は設計業務の仕様書に三者間の協力に関する取り決めを記載することとし、価格等の交渉段階では、基本協定に基づき交渉を実施して、交渉成立後、見積合せを実施した上で、優先交渉権者と工事の契約を締結しました。(図-5)

 

図-5  各段階における契約形態

 

(2)ECI方式により選定された架設工法等

上部工の架設は、優先交渉権者の技術提案により、多軸台車を用いたリフターベントによる架設を採用しました。

これにより、クレーン+ベント架設に対し施工期間を4カ月短縮するとともに、現道に近接するベント等の仮設材も不要となることから、安全面も向上しました。

また、施工期間の周辺地域への影響を貨幣価値として評価することで、経済性でも優位であることを示しました。

具体的には、施工時の規制による速度低下の影響を、ミクロシミュレーションにより算定しました。

施工により生じる社会的損失(渋滞損失)としてコスト換算し、施工工法比較に反映しました。この手法を用いることで、技術提案に対してイニシャルコストのみの比較ではなく、最適工法を総合的に判断することができました。

(3)維持管理性・製作性に配慮した桁高の設定

標準桁高及び最低桁高は、設計者及び優先交渉権者の提案により、交差道路の建築限界等の制約を受けない標準部の桁高は、最も経済的な2.2m、交差道路の建築限界等の制約を受ける部分の最低桁高は、CIMを活用し、点検・維持管理が容易に行える検査路の検討をした結果、1.8mに設定しました。

また、最低桁高1.8mを採用することで、主桁塗り替え時の足場設置スペースとして桁下余裕高を0.8mを確保することができ、確実な維持管理が可能となりました。(図-6)

 

図-6 桁高イメージ

 

4.活用した結果としての可能性と課題

ECI方式を活用した結果と現時点の気づきとして得られた知見は以下の通りです。

(1)施工条件改善効果

警察協議(交通規制)等、関係機関協議を ECI 業務段階から検討・交渉できれば、より実際の現地工事に即した施工計画が立案可能であり、手戻り防止につながります。

今後は、工事の緊急性(早期供用、災害対応等)に配慮しつつも、設計者と施工会社の議論、提案の反映、成果の照査を行うための十分な工期の設定が求められます。

(2)施工者技術提案を活用できる効果

通常の発注方式では採用されない技術提案を、最大限活用し、規制の日数など社会的な損失を削減する等、一定の効果が発揮できました。

今後は、技術提案の評価手法を含めた事後評価を実施し、妥当性の検証が求められます。

また、施工者のアイデアが、どこにどう反映されたか図面に紐づいた一覧表などがあれば、スムーズに製作工程に移ることができると考えられます。

(3)プロセス改善効果

早期段階で、設計者(詳細設計)、発注者(工事発注)、施工者(設計照査)の三者による課題共有、解決策の提案が同時進行で図られるため、通常プロセス(設計→工事発注→施工)に対し、期間短縮につながりました。

常に三者の意見調整が必要となることから、今後は、同方式を円滑に進めるためにも、発注者のリーダーシップ、判断力が重要であり、必要に応じて、発注者支援者を配置することも選択肢として考えられます。

また、設計者と施工者の協同作業として、提案事項の設計図面への反映など、作業分担や作業負荷に不明確な部分もあるため、整理し、作業の対価を検証することが必要となります。

(4)リスク低減効果

施工者が現地状況を、工事契約前に把握することができ、また施工者が望む施工方法を詳細設計段階から織り込めるため、製作・架設段階での手戻りを回避する効果が期待できます。

(5)ICTを活用しやすい体制の構築

発注者・設計者・施工者が調査、設計、施工の段階を超えて連携できるため、ICT(BIM/CIM)の活用しやすい体制が構築できる.具体例を以下にご紹介します。

1)属性情報の付与
・ 設計~工事~維持管理段階での必要情報の引継ぎ、連携による業務効率化
・ 各段階で発生する必要情報の効率的な整理・管理

2)施工段階での CIMモデルの効率的な活用(図-7)
・ CIM モデルを用いた施工計画の立案効率化
・ 施工方法および工程等の実現性確認。

 

図-7 架橋イメージ(3次元CIMモデル)

3)3CIMモデルによる効率的な照査の実施
・ 2次元図面では確認困難な干渉状態の早期把握と対応(フロントローディング)
・ 不具合箇所の確認による詳細設計への反映、設計精度向上

5.おわりに

本事業は継続中であり、工期短縮等の課題提案内容の具体な効果については、今後見えてくる状況ではありますが、現時点での可能性と課題を取りまとめたものです。

重要なのは、提案内容の事後評価として、検証を実施し、同方式がより効率的・効果的に運用されていくことと考えています。

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