寄稿/中部地方整備局 静岡河川事務所

寄稿/中部地方整備局  静岡河川事務所

自然の脅威から守る。自然の美しさを守る。

―― 有脚式離岸堤による海岸事業などを実施

国土交通省 中部地方整備局 静岡河川事務所

 

1.静岡河川事務所の事業概要

静岡河川事務所の所在する静岡市は、富士山を背景にして南は駿河湾を臨み、気候温暖でお茶、みかん、いちご等の栽培が盛んに営まれており、登呂遺跡によってよく知られているように古代から多くの人が居住し、豊かで住みよい土地柄として栄えています。現在は県庁所在都市として、県の中核となり発展しています。

当事務所は、昭和7年(1932年)に内務省の土木出張所として設置されて以来、およそ90年間にわたって、国土保全、流域の経済・環境に深く関わる河川および関連する砂防・海岸事業の推進に努めています。

 

図-1 静岡河川事務所の事業実施箇所

 

【河川事業】

静岡河川事務所では、昭和41年3月に一級河川として指定された安倍川(あべかわ)と、昭和42年5月に一級河川として指定された大井川(おおいがわ)の改修事業、環境整備事業及び維持管理を実施しています。

安倍川は、静岡、山梨県境の大谷嶺(標高1,997m)に源を発し、梅ヶ島、大河内をぬけて、静岡市西方にて支川藁科川を合流し駿河湾に注ぐ、流路延長51km、流域面積567km2の河川です。安倍川は日本の河川のうちでは、比較的延長は短く、流域面積もあまり広くはありませんが、けわしく刻まれた山地から急勾配で流下するため、おびただしい量の砂礫を流出しています。このため静岡市街地をひかえる下流部の河状はかなり不安定で古くからしばしば洪水被害を受けてきました。また、急流河川特有の川岸の洗掘が著しく洪水を安全に流すための対策が必要なため、堤防・護岸整備や河岸防護するための対策として巨石付き盛土砂州などを実施しています。

大井川は、静岡県の中部に位置し、その源を静岡県、長野県、山梨県の県境に位置する間ノ岳(あいのたけ)(標高3,189m)に発し、静岡県の中央部を南北に貫流しながら寸又川、笹間川等の支川を合わせ、島田市付近から広がる扇状地を抜け、その後、駿河湾に注ぐ、幹川流路延長168km、流域面積1,280km2の一級河川です。洪水氾濫から地域の安全・安心を確保するため、堤防整備や浸食による決壊を防ぐために低水護岸の整備を実施しています。そのほか、中島(なかじま)地区、川尻(かわしり)地区において、迅速かつ円滑な河川災害復旧活動の拠点となる河川防災ステーションを整備しています。

【砂防事業】

安倍川流域は、糸魚川・静岡構造線と笹山構造線に挟まれているため、破砕帯も多く、脆弱な地質と段丘砂礫層からなっています。また、地形も急勾配であるため、至る所で崩壊を起こし、荒廃が著しく、特に最上流部には、日本三大崩れの一つである「大谷崩(おおやくずれ)」があります。

この「大谷崩」は、安倍川の源流である大谷嶺が宝永4年(1707)の大地震により大崩壊してできたもので、その規模は、崩壊土砂量約1億2000万m3で、幅約1.8km、高度差約800m、平均深さ約70mと推定されます。この崩壊により、土砂が5km下流の赤水の滝まで勢い良く到達し、更にその後の豪雨により下流に大きな被害をもたらしたと伝えられています。

このとき形成された大規模な河岸段丘は、現在でも徐々に洪水によって浸食され、安倍川の土砂供給源となっています。こうした状況において、砂防事業としては、大規模崩壊地を抱える安倍川上流域における土砂生産量の抑制、流出土砂量の調節のため、砂防堰堤、山腹工等の整備や既設砂防堰堤の機能維持のための改築も進めています。

 

写真-1 大谷崩

 

【海岸事業】

静岡河川事務所では昭和41年の台風26号による大災害を受けた富士海岸蒲原工区(静岡市清水区蒲原地先)の延長約4.3kmの区間と昭和36年9月に来襲した室戸台風で被害を受けた旧大井川町の工事に着手してからその後区域を拡大した、駿河海岸(焼津市、吉田町、牧之原市地先)の延長約12.1kmの区間で海岸保全施設整備事業を実施しています。

 

写真-2 駿河海岸の有脚式離岸堤

 

2.有脚式離岸堤による海岸保全

 

写真-3 有脚式離岸堤の施工状況

駿河海岸では昭和62年より急峻な海岸地形においても必要な防護機能が期待される有脚式離岸堤を全国に先駆けて導入しています。有脚式離岸堤の開発は、昭和61年度から平成2年度にかけて行われた旧建設省総合技術開発プロジェクトのうち、沿岸域に多目的利用空間を創出する技術開発を目的としたマリンマルチゾーン(MMZ)計画において検討された海域制御構造物がベースとなっており、駿河海岸において6工法が採用されています。有脚式離岸堤はブロック式離岸堤と比べ、設置可能水深が深いため、急峻な海岸地形での設置が可能なほか、離岸距離を大きくとることができるため、離岸堤背後の利用及び景観面等で優れています。そのため、駿河海岸でこれまで10基の有脚式離岸堤を整備してきました。

 

図-2 駿河海岸で採用された有脚式離岸堤(6工法)

有脚式離岸堤設置により波浪低減効果や堆砂効果が期待できるため、大井川港航路浚渫土砂や防波堤堆積土砂をサンドバイパスによる養浜などを合わせて実施しています。

昭和58年の断面地形を基準とした代表測線(No.32)における汀線変化量と有脚式離岸堤施工時期、各時期における養浜量を示します。沿岸漂砂が途絶えている駿河海岸においては、サンドバイパスによる養浜とともに、海浜の侵食抑制に効果を発揮しています。

 

図-3 有脚式離岸堤の整備状況
図-4 有脚式離岸堤陸側の土量変化

 

3.終わりに

静岡河川事務所では、有脚式離岸堤の整備箇所には侵食した海浜を取り戻すため大井川港の航路や防波堤堆積土砂などを養浜材として活用するサンドバイパスや、近年では上流域のダム事業で発生する堆積土砂の活用等を図っています。総合土砂管理の観点から、各種事業との連携を図ることにより、今後もより効率的に事業を進め自然の美しさを守りながら、自然の驚異から地域を守っていきます。

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