現場寄稿/駿河海岸有脚式新型離岸堤の事業概要

現場寄稿/駿河海岸有脚式新型離岸堤の事業概要

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駿河海岸有脚式新型離岸堤の事業概要

五洋建設株式会社 齊藤 創太

株式会社不動テトラ 山崎 真史

 

1.はじめに

四方を海に囲まれた我が国は、波による海岸侵食や越波による背後地の浸水被害などの問題を抱える海岸を多く有しています。特に太平洋に面する駿河海岸は、駿河トラフの急峻な地形に起因する有数の侵食海岸であり、古くから甚大な浸水被害が多々発生してきました。これらの対策として昭和62年に開始された離岸堤事業は、数種類の有脚式新型構造物を活用した事業として継続中であり、現在2種類の新型構造物による建設工事が進捗中です。

2.令和2年度駿河海岸藤守離岸堤工事

本工事の離岸堤は斜面スリット型透過式ケーソン「S-VHS工法」を採用しました。S-VHS工法は静穏海域の創出、高波浪時における背後地の浸水防止、および砂浜等の海岸浸食防止を目的とした有脚式離岸堤です。本工法は鉄筋コンクリート製のケーソン(以下、函体)を鋼管杭基礎により支持する構造です。

函体には鋼管杭よりも一回り大きな鋼管(以下、ガイド管)が埋め込まれており、ガイド管と鋼管杭の隙間にグラウトを充填することで函体と杭を一体化させます(図1)。函体に設けた複数のスリットは乱れの発生を促し、波浪の持つエネルギーを消散させます(図2)。S-VHS工法は、従来型「VHS工法」を改良し、堤体上部を斜面構造としたもので、従来型と同じ消波性能を保ちながら耐波浪性に優れる工法です。斜面構造により波力が分散・低減されるため、従来型と比較して函体や鋼管杭を小さくでき、経済性・施工性も向上しています。

図1 S-VHS工法構造概要
図2 スリットによる消波メカニズム

本工事では8函の函体からなる全長約150mの離岸堤を建設します。工事着手後、大井川港岸壁付近のヤードにて、函体1函あたり6本のガイド管を建て込み、その周囲に鉄筋、型枠を組み立てます。

函体は幅9.8m×延長17.0m×高さ8.2mと大型のため、4段に分けてコンクリートを打ち上げ、合計8函を製作します。その後、海上にて函体1函あたり6本、合計48本の鋼管杭打設を行います。駿河海岸は海象条件が厳しく、通常の杭打船では動揺により鋼管杭を高精度に打設できないことが懸念されますので、4本のスパッドにより船体を固定できるハーフセップ台船を使用します。

ハーフセップ台船に搭載したクローラクレーンによりバイブロハンマと油圧ハンマを併用して所定の深度まで鋼管杭を打設したのち、大型起重機船を使用してケーソンを設置箇所まで運搬し、据え付けます。据付完了後、ガイド管と鋼管杭の隙間にグラウトを充填して施工完了となります。

3.令和2年度駿河海岸一色離岸堤災害復旧工事

本工事は台風により災害を受けた有脚式離岸堤を撤去した後に新設して復旧するものです。撤去は海上においてワイヤーソーイング工法等を使用して大割にした撤去構造物を起重機船にて陸揚げした後に陸上機械で小割にします。新設する離岸堤はH型スリット版ジャケット型離岸堤「CALMOS(カルモス)」を採用しました。

CALMOSは鉄筋コンクリート構造の上部工と下部の鋼製ジャケット構造を組み合わせたものでこれらを貫通する鋼管杭と一体化させ支持させるものです(図3)。上部工は2枚の透過性鉛直消波版と水平消波版をH型に組み合わせた構造で、これら版に発生する乱れによるエネルギー損失と反射により消波効果を得ることができます(図4)。

 

図3 CALMOS構造概要図
図4 消波性能メカニズム

ジャケットは鋼管をトラス状に組み合わせたもので大きな波の力に対して抵抗することが可能となります。鋼管や鉄筋はそのままでは海水中で錆が発生し劣化してしまいます。そのため、本構造ではアルミニウム合金陽極を取り付けて錆の発生を抑制する電気防食を行います。

本工事のCALMOSは8函の上部工と2基のジャケット、鋼管杭32本からなる全長100mの離岸堤となります。上部工とジャケットはプレハブ化しており現地海上工期の短縮が可能です。上部工の製作は大井川港岸壁付近のヤードにて行います。1函の大きさは幅10.0m×延長12.2m×高さ4.1mとなり3回に分けてコンクリートを打設します。ジャケットの製作は福岡県北九州市の工場で行います。

1基の大きさは幅10.0m×延長49.7m×高さ3.8mとなります。ジャケットは製作完了後に海上運搬にて現地に搬入し、起重機船を使用して事前に打設した仮受杭の上に設置します。鋼管杭はそのジャケットをテンプレートにして打設するため海上での施工性に優れています。次に大型起重機船を使用して大井川港で製作した上部工を設置個所まで運搬し据え付けます。据付完了後、鋼管杭とジャケットおよび上部工の隙間にグラウトを充填することで一体化させ施工完了となります。

4.おわりに

当該海岸は急峻であり、また1年を通して大きな波浪が来襲することに加え、地域特産品の良好な漁場であることから、海上での施工可能期間が極めて限定されます。このような条件のもと、これまで設計および施工上の様々な工夫により離岸堤の建設が継続されてきました。本工事を通じて、今後も海岸および地域の環境や安全を守るべく、技術の研鑽に努めてまいります。


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